Neue Geschichte

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【シャニマスコミュ考察】月岡恋鐘 月の浜辺で待っとって

本当に欲しいものって、何?

限定恋鐘のコミュといえばTRUEコミュの「愛してる」。このセリフで血糖値が爆上がりしたPは私だけではないはずです。

 

ですが、この「月の浜辺で待っとって」には、それ以外にも魅力が詰まっています。キーワードは「本当に欲しいもの」。

 

このコミュでは、恋鐘が欲しいものを自分で手にしていく様が描かれています。それも、あの有名な輝夜姫との対比の通じて。今回は、甘々なだけでない恋鐘の魅力について簡単に解説していきたいと思います。

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月岡恋鐘 月の浜辺で待っとって

あえて簡単な、と断りました。今回のコミュも前回に引き続き、元ネタを知ることで何か新しい解釈ができないか?と思ってアレやコレや考えてみたのですが、最終的にとある結論にぶつかります。それは、

 

「こがたん、多分そんなに考えていないよね」

 

この二次創作者泣かせの事実に対して、私はどう立ち向かえばいいのか。逆立ちして出た答えが、「考えていないのにやっちゃう恋鐘、かっこいいよね」です。そう、結論はそれだけ。でも、誰かのインスパイアになればと思い、以下にまとめていきたいと思います。

 

竹取物語について

竹取物語は8世紀後半から9世紀前半に製作されたとされる作品です。作者については伝わっていませんが、日本初めての創作物語とも評されています。この名も知れぬ作者は日本各地にある様々な伝承と、当時の藤原政権に批判的な態度と、彼自身のユーモアをミックスして物語を創造しました。

 

月から堕とされたかぐや姫が求婚者たちに無理難題を吹っかけ、最後には月へ帰っていくストーリーはみなさんご存知の通り。近年でも映画になったりゲームのモチーフになったりと、その魅力は1,000年以上経っても色褪せてはいません。

 

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コミュの中での竹取物語について

では今回はその竹取物語が登場するコミュ、月岡恋鐘の「月の浜辺で待っとって」をみていきましょう。

 

冒頭は彼女が平安調の着物を着て写真を撮るシーンから始まります。この写真のおかげで、彼女は小さいながらも、舞台で竹取物語輝夜姫を演じる機会に恵まれました。

ですが、コミュの中でPと恋鐘は初詣に行ったり、福袋を買いに行ったりと、終始イチャついているだけのように見えます

 

TRUEでも練習に見せかけて「愛してる」と囁き合う始末。

結局、プレイヤーである私たちには、恋鐘がどんな舞台を演じたのか目の当たりになりません。ですが、舞台の本番を見なくとも、このコミュの重要な部分はすでに描かれているのですそれを以下に見ていきましょう。

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イチャつく恋鐘とP

 

 

恋鐘が舞台で演じるセリフに、次のものがあります。

 

「私はこの世のものではありません。私を手に入れたくば、蓬莱の玉の枝をご持参ください」

 

このセリフ、実は竹取物語には登場し得ないセリフなのです。竹取物語において、輝夜が蓬莱の玉の枝を所望する相手は倉持皇子。一方、自分が月から来た人間であることを明かすのは求婚者の中では帝ただ一人なのです。そのため、恋鐘が舞台で演じたかぐや姫のストーリーにはアレンジが加えられていることが推察されます。

 

ところで、輝夜は本当に蓬莱の玉の枝が欲しかったのでしょうか。答えはNO。五人の貴公子たちからの求婚を体良く断るために、それぞれに難題をふっかけているに過ぎません。

 

こうしてみると、先に触れたセリフは原作に登場しませんが、輝夜というキャラクターを大変よく表現していると思います。自分は男たちに靡く気が全くないのに、月に帰らなくてはならないからと理由をすり替え、蓬莱の玉という無理難題を吹っかけて、求婚を体良く断っていく。容量が良くてどこか冷めた女。それが輝夜姫なのです。

 

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輝夜のセリフ

 

冷めた女である輝夜にとって、蓬莱の玉の枝も、その他の珍しい品々も、本当に欲しいものではありません。

 

では、彼女にとって本当に欲しいものとはなんだったのでしょうか?

この問いにスポットを当てた作品こそジブリの「かぐや姫の物語」です。

 

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スタジオジブリ かぐや姫の物語

この作品の中では、竹取の翁がかぐやを一人前の姫になるように教育を施す様が描かれます。天真爛漫な彼女は、次第に立派な姫君になるように「強制」されていくのでした。

 

やがて翁の努力が身を結び、都の中で評判になったために、貴公子らの求婚を受けることになったかぐや姫ですが残念ながらそこに愛はありません。貴公子達は、言うなればコンプリート欲、美人であればとりあえず契っときたい、の心で求婚してきたにすぎません。

 

彼らとの対比として、かぐやは農民として暮らしていた頃の飾らない感性、四季を愛でる心や、コンプリートの対象でない人としての扱いを心の中では求めていたのです。

 

ですが、彼女は欲しいものを一切手に入れることはできず、それらを地上にすべて残して、月の世界に帰っていくのです。静寂が支配する月の世界では、心が動くこともないため、もはや「欲しい」と言う感情すら湧きません……

 

さて、翻って「本当に欲しいもの」をキーワードに「月の浜辺」を読み解いていきましょう。

 

月の浜辺のコミュ

ここからは、ゲームのコミュ内で輝夜を演じる恋鐘にスポットを当てていきましょう。

 

コミュで恋鐘は様々なものを所望します。大トロに始まり、福袋・おみくじ、コミュの詳細説明はゲームや動画で確認できるので、ここでは省略させていただきますが、自分が本当に欲しいものを自分で勝ち取っていく様が描かれていることがわかります。

 

おみくじだって、普通の人は一、二回引いたら満足するところを、恋鐘は大吉を引けるまで粘る。

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大吉が出るまで引くけん!

これが普通のコミュで描かれていれば、「恋鐘ってちょっと変わってるよね」で済むのですが、自分の欲しいものは何一つ手に入れることが出来なかった輝夜がモチーフのコミュで描かれていることに大きな意味があると思うのです。

 

「月の浜辺で待っとって」において、恋鐘が輝夜を演じるコミュです、ですが、二人の「欲しいものに対するスタンス」は全く違う。しかも、恋鐘自身は「輝夜姫を演じているから」とか「作品がどうだから」といったことは一切考えることなしに、ありのままの自分で、本当に欲しいものを求め、自分で手に入れていく。

 

恋鐘がリーダーとしている限り、L'Anticaは自分たちの欲しいものを、自分たちの力で入れていくはずです。宇宙一のユニットにだってなってくれるでしょう。

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大トロ ひゃくおくえん

愛してるのセリフ

最後に、恋鐘の台詞であり、輝夜のセリフでもある「愛してる」について考えてみましょう。

 

見落とされがちではありますが、輝夜が帝の求婚を断った後、二人は文を交わす間柄になります。これは単なるメル友(死語)ではなく、平安の時代では、心が通い合っている、と言っても過言ではありません。

 

Trueコミュにおいて恋鐘は「愛してる」のセリフを練習していますね。このことから、舞台で輝夜は帝に対してその思いを伝えると類推されます。こちらも、古典の竹取物語にはないシーンで、この舞台は、輝夜と帝の結ばれなかった恋を描いていると推測されます。

 

結局、月に帰っていく輝夜。もし、愛してるを"I want you"に置き換えてみれば、ここでも輝夜は欲しかったものを手に入れられなかったことになりますね。

 

ここまで述べてきた通り、「月の浜辺で待っとって」では、恋鐘と輝夜は対比して描かれていました。はてさて、これから恋鐘は一体誰を手に入れるのでしょうか?

 

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月の浜辺にて

 

まとめ

 

月岡恋鐘の「月の浜辺で待っとって」は、一見するとPラブ勢の甘々な日常を描いたコミュに見えます。

 

ですが、輝夜姫との対比の中に、恋鐘の「自分の欲しいものを自分で手に入れる」性向を描いた読み応えのあるコミュとなっています。

 

おそらく、恋鐘本人は輝夜の事は一切気にすることなく、心のままに求めている。それこそが彼女のリーダーたる所以なのでしょう。

 

動画
今回もニコニコ動画に解釈MADを投稿しています。

こちらもどうぞよしなに。

www.nicovideo.jp

 

参考文献

角川書店編, ビギナーズ・クラシックス日本の古典 竹取物語(全), 角川ソフィア文庫

室伏信助訳, 注新版竹取物語, 角川ソフィア文庫

江國香織, 竹取物語, 新潮社

坂口理子, かぐや姫の物語, 角川文庫

和田博文, 月の文学館 月の人の一人とならむ, 筑摩書房

日野原健司, 月岡芳年 月百姿, 青幻社

ラフカディオ・ハーン、池田雅之編訳,小泉八雲東大講義録,角川ソフィア文庫

梅田卓夫,文章表現 四◯◯字からのレッスン,ちくま学芸文庫