【漫画 煙と蜜】大正時代の名古屋
いつもの本屋である漫画が目につきました。タイトルは「煙と蜜」。
表紙に描かれた男女は、(と言っても女というより女の子という方が正しいのですが)その服装で作品が大正時代モノであることを強烈に主張しています。
歴史をテーマにブログを書いている者としてこれはスルーできません。手に取って、帯を見てみると「大正5年、名古屋」と書かれています。
え、大正で、なんでわざわざ名古屋・・・?
筆者は名古屋生まれの名古屋育ちで、好きな野球チームは中日ドラゴンズ。20年間を過ごした地元のことはそれなりに知っているつもりです。
だから「大正時代って言ったら帝都東京でしょ?物語の舞台になるほどの魅力って名古屋にあったっけ?」と思ったのです。
工業でも農業でも日本で上位に食い込む愛知県ですが、観光業についてはかなり劣ると言わざるを得ません。ですが、東海道新幹線のおかげで、名古屋人には京都も東京も近い。日帰りの東京観光ですら不可能ではないのです。
名古屋人にとって、レジャーは県外に求めるもの。自前で自慢できる観光力を持たない代わりに、それがあることによる煩わしさから解放されるという利点を享受しているのです。
そんな華のない街・名古屋で、モボやモガの闊歩する花の時代を描く理由はなんだろう?などと考えながら、レジに足を運んだのです。
簡単な内容説明
良家の娘である花塚姫子(12歳)と、帝国軍の将校である土屋文治(30歳)は許嫁の関係で、3年後に正式に結婚する事が決まっています。
キャッチコピー「戀から愛へ。子供から大人へ。」の通り、主に姫子の視点から、二人の関係が描かれているのですが、これがキュンキュンする訳ですね。
文治さまは男の目線から見てもセクシーで、彼が煙草の煙を燻らせるシーンを見ると、こういうの見てみんな煙草始めるのかな、とも思えてきます。
また、2人の関係だけではなく、大将時代における日常、四季の変化や、何気ない日常を丁寧に描いていく感じは、天野こずえのARIAを思い出しました。読んでいて、ほっこりと落ち着くのです。
ですが、ずっとこんな感じで続く訳でもなさそうです。
第一巻の後半では文治さまが30歳にして帝国陸軍第三師団・歩兵第六連隊の大隊長であることがわかります。
Wikiで調べてみると、第三師団は大正時代に実際に名古屋に置かれていたようで、この第六連隊は、大正7年にシベリアへ出兵することとなる・・・
ここから、出兵の前後が物語のハイライトになることが想像できますね。
それでもなんで・・・?
山場が出兵前後であると推察される「煙と蜜」ですが、なぜあえて、大正5年・名古屋なのでしょうか?
戦争で引き裂かれる二人をテーマに描くのであれば、他の時代・他のロケーションもあり得るはずです。
例えば、明治の女流歌人・与謝野晶子。彼女の弟は日露戦争に従軍し、旅順での作戦に参加することなるのですが、その時に与謝野晶子は有名な「君死にたまふことなかれ」の歌を残しました。
与謝野晶子の弟が所属したのは大阪の第四師団・第八連隊ですから、舞台を1900年の大阪に設定しても、戦争で引き裂かれる男女を描くことはできるはずです。しかも、与謝野晶子と同時代の舞台ということで、一般的にもわかりやすい。
にもかかわらず、大正5年の名古屋を舞台に選ぶのはなぜでしょうか?
私は、以下の2つの可能性が挙げられると思います。
①作者は旅順でもその他の戦場でも無く、シベリア出兵こそ描きたい
②作者は大正時代の名古屋に魅力を見出している
ただ、①の場合、出兵の3年前からゆっくりとした日常を描くのはちょっとチグハグな感じがします。
それよりは、大正時代の名古屋に魅力を見出し、物語のアクセントとしてシベリア出兵を置く②の方が自然なように見えます。
ここまでが、巡礼の前置き
20年間を過ごした私にとって、大正時代の名古屋はいまいちピンとこない。
一方、漫画 煙と蜜の作者は大正5年の名古屋に魅力を見出している・・・
地元民でも知らない魅力とは一体なんだろう?と思ってカメラを片手に、きちんとマスクをつけて帰省しました。
目指すは、名古屋駅から桜通線・名城線を乗り継いだ先の市役所駅。
このエリアでは、明治・大正っぽい建物が残されているイメージがあったのです。
ということで、市役所駅から徒歩10分ほどで名古屋市市政資料館に到着。
ここは明治・大正から令和に至るまでの名古屋の歴史が展示されているだけではなく、建物自体も大正11年に建築されています。
入館は無料で、時代を感じさせるエントランスが迎えてくれます。
地下の大学図書館のような古めかしい香りがしている。
二階の展示スペースは写真撮影可能な場所もあるとのことで、回ってみました。
右下に第三師団司令部とあります。文治さまの勤務地ですね。
第七話「兵隊と金鯱城」の一コマ目と似ています。漫画はもう少し弾き気味の構図であるところと、正面に木が生えていないところが違いでしょうか。
こういったシーンも漫画の中で登場してそうですね。
展示ムービー曰く、覚王山・広小路通り周辺には大正時代の建築が残されているとのことでした。ネットで検索してみると、大正時代から続く喫茶店とかもヒットしますね。
こうしてみると、私が知らないだけで、大正時代の素敵な建物は結構残されているのかもしれません。
「煙と蜜」に登場するかも?とか思いながら、名古屋を巡ってみるのオツなものかもしれませんね。
名古屋大正めぐり、続くかも・・・?