Neue Geschichte

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【シャニマスコミュ考察】杜野凛世 水色感情

恋は何色?

杜野凛世のカードの中で、いや、シャニマスの中で最も人気のある「水色感情」(ファミ通5月号調べ)。そのコミュにはある楽曲が大きく関わっています。今回は、この楽曲をキーに、凛世のコミュについて掘り下げてみましょう。

 

・楽曲「恋は水色」の概要

Katariya氏の考察によれば、水色感情のコミュ名は全てレコードのタイトルから取られているとのことです。ですが、今回は登場するレコード全ての解説では無く、特に「恋は水色」に絞って考察を行いたいと思います。PSSRの名前が「水色感情」であることから、これらのレコードのうち、「恋は水色」こそ最も重要な楽曲と私は考えるためです。

 

さて、その「恋は水色」1967年に発表されたフランス語の楽曲で、元々のタイトルは「L'amour est bleu(らもーれ ぶるぅ)」。英語なら”Love is blue”、ドイツ語では”Liebe ist Blau”となります。日本語のタイトルをつける際に、”L'amour”を愛ではなく、恋と訳したところは「わかりみが深い」というヤツですが、その理由は追ってご紹介します。

 

この曲はユーロビジョン・ソング・コンテストに入賞し、ヒットチャートの首位を5週間キープしたのち、数多くのアーティストにカバーされました。私は無学ゆえ、フランス語はわからないのですが、それでもなぜか懐かしさを感じます。時代や言語を超えたメッセージ性こそ名曲たる所以なのでしょう。

 

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杜野凛世 水色感情

 

・水色はブルーか?

曲からコミュを読み解いていく前に、少しややこしい話をします。

「水色」や「ブルー」、「blue」と聞いたとき、貴方はどんな色を想像するでしょうか?特に意識しなければ、いつもおおよそ同じ色を想像するでしょう。

 

では、「水色」=「ブルー(blue)」でしょうか?

 

実はそうではありません。例えば、「彼女にふられて僕の心はブルーだ」とは言えて、彼が失恋に沈んでいることがわかります。一方、「彼女にふられて僕の心は水色だ」と言われても、いまいちピンときませんね。悲しんでいるのか、清々しい気分なのかよくわからなくなります。

 

同じ色を示す言葉でも、その言葉が持っている意味以外の部分、今回の例で言うなら「感情」でしょうか。そういった言語につきまとうイメージは実はそれぞれの言語で異なっているのです。

 

現に、L'amour est bleuの英語版”Love is blue”の歌詞は下記の通り、恋の悲しみに溢れています。冒頭のみ抜粋ですが、終始こんな感じ。

 

Blue, blue, my world is blue

Blue is my world now I’m without you

Gray, gray, my life is gray

Cold is my heart since you went away

 

私の世界は水色

あなたがいなくなってしまって、私の世界は水色

私の人生は灰色

あなたがいなくなってしまって、私の心はつめたい

 

 

 

一方、日本語での「恋は水色」の冒頭を見てみましょう。

 

青い空が お日さまにとける

白い波が 青い海に溶ける

青い海は 私の恋の色

青い海は あなたの愛の色

恋は水色 空と海の色

 

このように、日本語の歌詞には失恋の悲しさは全く登場しません。

同じものを指す言葉が、全て同じとは限らないのです。

 

 

・元ネタに当たってみよう

そう考えると、オリジナルの仏語であるblue=水色)にどんな感情が含まれているか探ってみることに価値があると思えませんか?私たちは、凛世のコミュを読む際、特に意識しなければ日本語の水色、もしくは身近な”blue”から考えているはずです。ですが、もし原曲の”bleu”に含まれる意味が違えば、新たな解釈が可能になるかもしれません。

 

また、凛世とPが鑑賞したレコードも、フランス語の”L'amour est bleu”でしょう。水色感情のコミュ冒頭で、凛世は英語の勉強をしていましたね。第五文型を翻訳していた彼女が、”Love is blue”を読めない事は考えにくい。このことから、レコードのタイトルはフランス語で表記されていたために意味がわからなかった、と考えるのが自然では無いでしょうか。

 

一体、彼女たちはどんな曲を聞いて、聞いていれば「何を」わかる気がしたのか、それを探るためにも、仏語の”L'amour est bleu”を聴くことは役に立ちそうです。

 

念のため断っておきますが、私は原曲を聞かずにコミュを語るな、と言いたいわけでは決してありません。ゲームをプレイした感想も大事であり、同時に元ネタからの発見も同様に大事である、これが私のスタンスです。

 

 

・元ネタから解釈してみよう

・1番の歌詞

Doux, doux, l’amour est doux

Douce est ma vie

Ma vie dans tes bras

Doux, doux l’amour est doux

Douce est ma vie 

Ma vie près de toi

 

甘い、甘い、恋は甘い

人生は甘い

あなたの腕の中の私の人生は

甘い、甘い、恋は甘い

人生は甘い

あなたのそばの私の人生は

 

Bleu, bleu, l’amour est bleu

Berce mon coeur,

Mon coeur amoureux

Bleu, bleu, l’amour est bleu

Bleu comme le ciel 

Qui joue dans tes yeux

 

水色、水色、恋は水色

私の心を揺する

恋する心を

水色、水色、恋は水色

空のような水色

あなたの瞳に映った

 

Comme l’eau

Comme L’eau qui court

Moi mon coeur

Court après ton amour

 

水のように

流れる水のように

わたし、わたしの心は

あなたの愛を追って流れる

 

 

一番では恋の甘さを歌っています。それは恋の始まりでしょうか?

ここでの水色は、水=生きるためになくてはならないものや、空=いつも私たちと共にあるもの、といったニュアンスでしょうか。英語版に描かれていたような悲しみのニュアンスは全く含まれていません

 

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風鈴の色は青

 

・2番の歌詞

Gris, gris ;’amour est gris

Pleure mon coeur

Lorsque tu t’en vas

Gris, gris le ciel est gris

Tombe la pluie

Quand tu n’es plus là

 

灰色、灰色、恋は灰色

わたしの心はなく

あなたが行ってしまって

灰色、灰色、空は灰色

雨が降る

あなたがいなくなって

 

Le vant, le vent gémit

Pleure le vent

Lorsque tu t’en vas

Le vant, le vent maudit

Pleure mon coeur

Quand tu n’es plus là

 

風が、風が唸る

風が泣く

あなたが行ってしまって

風が、風が呪う

わたしの心は泣く

あなたがもうここにいないから

 

1番から一点、2番の歌詞は恋の悲しみを歌っています。しかし、その色はブルーではなく灰色。大好きな貴方が居なくなって、悲しみを知って、心が泣くのです、ウミガメのように。凛世が「聞いて入ればわかる気が」したのは、このパートかもしれませんね。

 

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凛世花伝のコミュも灰色が多い

 

余談ですが、古今和歌集の恋の和歌も、相手に惚れるところから始まり、結ばれ、最後に別れる順番に配置されています。

 

このように、「恋」とは移ろいゆくものであります。冒頭で、L'amourを「恋」と訳した分かり味が深いとしたのも、この2番があるが故です。曲の中の「あなた」の挙動次第で心が揺れ動く様は「愛」よりも「恋」と訳すべきでしょうから。

 

・3番の歌詞

Fou, fou, l’amour est fou

Fou comme toi

Et fou comme moi

Bleu, bleu l’amour est bleu 

L’amour est bleu

quand je suis à toi

 

狂う、狂う、恋は狂う

あなたが狂う

わたしも狂う

水色、水色、恋は水色

恋は水色

わたしはあなたのものだから

 

(重複する歌詞は省略しています)

 

恋は狂う。私は恋に狂う。2番で行ってしまった「あなた」も恋に狂ってしまいます。

 

いきなり意味深な歌になりました。様々な読み方があるかとは思いますが、一度は離れてしまった二人が、再開の喜びに狂喜乱舞している、そんな感じでしょうか。何かの事情があって離れ離れになっていたのか、それともヨリを戻したのか、二人のシチュエーションに妄想が膨らみます。

 

・コミュを読む

では、最後に”L'amour est bleu”を踏まえてコミュを読んでみましょう。

これまで触れてきた通り、”L'amour est bleu”は幸せ一杯だった恋(恋の始まり?)から、離れ離れを経て、最後に再開しハッピーエンドを迎える歌です。

 

この曲自体が、これまでの凛世のコミュを象徴しているように思えませんでしょうか。

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Pの近くにいたい一心でアイドルを始めた凛世、ですが水色感情のラストでは、Pに「自慢のアイドル」と言われたことを大変喜んでいます。

一方、Pの方は、凛世のことを自分が一番わかっていないといけない、とこれまでとは少し変わったスタンスで考え始めるようになります。


曲の通り、ハッピーエンドを迎えるのか?それともいつまでもすれ違いを続けるのか?今後のコミュからも目が離せそうにありません。

 

追記

十二月短編はすれ違い継続。ハッピーエンドはまだ遠いのかもしれません

 

参考文献

Katariyaのアイマスブログ, 杜野凛世の水色感情とは何なのか?

katariya0116.hatenablog.com

林克彦編, 週間ファミ通 2020 5/7, 株式会社KADOKAWA

鈴木宏子, 「古今和歌集」の想像力, NHKブックス