梅田駅の地下で、女性がピアノを弾いていた。
楽曲は松任谷由美の名曲「春よ、来い」。
幾度となく聞いた曲だが、やけに耳に残った。
彼女はなんとなくこの曲を弾きたかっただけかもしれない。
でも、私はその時ふと思ったのだ。
そうか、桜が満開を迎え、街に新人社員が溢れても、まだ春は来ていないのか。
事実、今年の桜を撮ることは諦めていたのだ。
そんな私を鼓舞するかのように、
もしくは、病の終息を切に願うかのように、彼女のピアノは鳴り響いていた。
表現することの意義が、受け手の心を動かすことであるならば、あのとき彼女は一流の演奏者だった。
春よ、来い