【シャニマスコミュ考察】杜野凛世 朝コミュ 夢と知りせば
シャニマス のプロデュースに慣れ、メモ帳がなくても朝コミュでパーフェクトの選択肢を覚えてしまった。そんなプロデューサーは私だけではないはずです。ですが、パーフェクトの選択肢以外も、実はなかなかに味わい深い。
今回は、凛世の朝コミュ②であえてノーマルをとってしまった場合の彼女のセリフを、 コミュに登場する和歌から読み解いていきたいと思います。アイドル育成の面から言えばハズレと言える内容でも十分に楽しむことができる。それがシャニマス の素晴らしいところです。
「夢と知りせば」からはじまる朝コミュの選択肢で「歌人と同じ経験ができたんだな」を選ぶと、凛世の返答は「はい、ですが、少し切ない歌なのです、できることならこの歌のようには」となり、ノーマルコミュとなってしまいます。
和歌は
思ひつつ 寝ればや 人の見えつらむ 夢と知りせば さめざらましを
で、日本語訳は次のようになります。
あの人を思いながら眠りに落ちたので、夢に見たのだろうか。夢と知っていたのなら、そのまま覚めないでいたものを
幸せな夢から覚めてしまった気持ちを歌うこの和歌を、凛世はなぜ「少し切ない歌」と言ったのでしょうか?もう少し掘り下げてみていきましょう。
・不幸な美女
小野小町は9世紀ごろを生きたとされる女性ですが、その出自についてや本名はについては不明。美しく、恋多き人であったようですが、晩年は落ちぶれてしまったと伝えられています。類稀なる美貌を持ちながらも、幸せになれなかった女、それが小野小町なのです。
また、彼女は和歌の名手で、凛世の特技でもある百人一首にも選ばれています。冒頭の和歌「思ひつつ 寝ればや 人の見えつらむ 夢と知りせば さめざらましを」は古今和歌集に収録されていますが、この歌集が、小野小町に「不幸せな女」という強いイメージをつけ、凛世に「この歌のようなことには」と言わしめたのかもしれません。
・古今和歌集
古今和歌集とは醍醐天皇(885~930)の勅命により制作された歌集です。天皇の勅命により作成される歌集を、勅撰和歌集といいますが、古今和歌集は最初の勅撰和歌集で、その後、応仁の乱まで歴代の天皇によって勅撰和歌集が編纂されました。
古今和歌集は全二十巻からなる歌集で、一 ~ 六巻が「四季」、十一 ~ 十五巻は「恋」をテーマに扱っています。他にも「旅」や「別れ」をテーマとした巻があります。
勅撰和歌集なだけあって、編者は構成にも注意を払っています。恋歌を扱った五つの巻も、ただ単に並べるのではなく、恋の段階で分類するという配慮がなされているのです。鈴木宏子著『「古今和歌集」の想像力』では恋歌五巻を下記のように分類しています。
恋一・・・逢わざる恋(その一)
恋二・・・逢わざる恋(その二)
恋三・・・初めての逢瀬とその前後
恋四・・・熱愛から離別まで
恋五・・・失われた恋の追憶
・和歌からコミュを読む
凛世が朝コミュで引用した小野小町の和歌は、恋二巻の冒頭を飾っているのです。巻のテーマは逢わざる恋、つまり二人が逢う(両思いになる)前の恋です。このことを踏まえれば、和歌の解釈はこのようになるのではないでしょうか。
あの人を思いながら眠りに落ちたので、夢に見たのだろうか。夢と知っていたのなら”現実では会えない分も”そのまま覚めないでいたものを。
そう、この和歌はあの人と過ごす夢の世界の甘さを歌ったのではありません。「夢から覚めてはあの人と会うことができない」という現実の冷たさ、切なさを歌っているのです。
凛世はこの和歌の意味を理解していたために、「できることならこの歌のようには」と言ったのです。小野小町と違い、凛世は夢の外でも愛しい人に会うことができる。そこまで踏まえて、凛世は朝っぱらから「夢と知りせば」と言っているのです。ギュッとしたくなりますね。
ところで、このギュッとしたい感覚を味わうために、私たちはこのコミュでパーフェクトの選択肢、ひいては好感度+3の上昇を諦めなければならないのでしょうか?
そうではありません。和歌の解釈を踏まえると、パーフェクトコミュの凛世のセリフも、より一層重みがますはずです。重い女っていいよね。
さて、みおつくしの考察をはじめ、これまでみてきた通り、凛世のPに対するアプローチは和歌などの元ネタを通したものであり、直接的には届いていなかった感がありました。
ですが、GRAD編では大きく変えてきましたね。元ネタから読み解く、という楽しみ方は少し減ってしまいますが、これまでのすれ違いとは異なる展開に、今後も目が離せません。
参考文献
日野原健司, 月岡芳年 月百姿, 青幻舎
番外編
今回扱った古今和歌集は最初の勅撰和歌集(帝によって制作が企画された和歌集)でした。タイトルに一文字加えた新古今和歌集という勅撰和歌集も存在します。
フルカワP個人的には、新古今和歌集が今アツい!
この和歌集は、三谷幸喜が脚本を手がける2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」において、ラスボスとなるであろう後鳥羽上皇により編纂されているのです。
また、この和歌集の中で最も多く取り上げられている歌人は、あるラスボスとも関わりが深いのです。
今後は、新古今和歌集の時代の記事も書いていきたいと思います。
シャニマス を始めとした現代の文化から、日本史の深みにハマっていく、そんな同好の士が増えることを願って・・・
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